岩手スポーツマガジンStandard(スタンダード)岩手をひとつにするのは、スポーツだ〜After 3.11『大船渡高校サッカー部』〜

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[4/12更新] 支えを失くしたこどもたちが小笠原満男から受け取ったもの 大船渡高校サッカー部の今

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未曽有の震災から3週間

 東北地方太平洋沖地震に見舞われ、岩手県三陸沿岸部の中でも特に甚大な被害を被った大船渡市。報道によると、最大20m以上の高さに及んだとされる津波により街は半壊、死者・行方不明者合わせて500人以上という凄惨な被害を被った。現在も多くの人が避難所生活を余儀なくされ、不安な生活を強いられている。

 3月11日午後2時46分。その時間、大船渡高校サッカー部の部員はグラウンドで練習に励んでいた。同校グラウンドは避難場所に指定されており、幸いにも生徒に被害はなかった。

 街の形を変え、暮らしを変えたあの震災から約3週間が過ぎようとしている。彼らは今なにを想い、なにを行い、どんな生活を送っているのか。今野貴光監督、主将の岩崎開さん、佐々木龍さん、2年の小松胤智さんの4名に話を聞いた。

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(写真:昇格への熱意を語ってくれた今野貴光監督。今年に賭ける想いは誰より強い)

“サッカーがない生活”を送る部員たち

 大船渡高校サッカー部は、元日本代表の小笠原満男選手らを輩出してきた名門として知名度が高い。そんな名門の生徒たちが今、“サッカーのない生活”に直面している。

 現在、同校の生徒は自宅待機をしており、その中で各々が自主的にボランティア活動に勤しんでいる。「家の手伝いをしながら、時間を見つけてがれきや泥の片づけ、飲料水を運んだりしています」と岩崎さん。このような街の惨状、そして生活の中で彼らは果たしてサッカーのことを考えられるのだろうか?

 その投げかけに対し、3人の生徒は異口同音に「サッカーをしたくてたまらない」と、どこか遠慮したような笑顔で答えた。小松さんが続ける。「ただ、震災前までは家族や地域の支えの中で自分たちがサッカーをやらせてもらえていたけど、その支えてくれていたものが揺らいでいると思う。今はその支えを1日でも早く取り戻すためにボランティアに励んで、それから思う存分、サッカーに打ち込みたい」。これが彼らの本音なのだろう。サッカーがやりたくてたまらない気持ちと、これまで支えてくれた家族や地域に対して今度は自分たちがその支

えとなりたい気持ち。2つの気持ちは背反しない。しっかりと優先順位をつけて目の前のすべきことをする。そこには少しの迷いも感じられない。彼らの瞳が雄弁に物語っていた。

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(写真:インタビューに応じてくれた大船渡高校サッカー部の生徒。左から佐々木龍さん(3年)、岩崎開さん(3年)、小松胤智さん(2年))

視聴覚室で観戦したチャリティーマッチ

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(写真:ゲームシャツやシューズをはじめとした支援物資。
大船渡高校出身の元日本代表小笠原満男選手や現在、川崎フ
ロンターレのコーチを勤める今野章さんなどから寄せられて
いる。)

 取材前日の3月29日19時20分。被災者への黙とうの後、キックオフのホイッスルが大阪・長居スタジアムに鳴り響いた。日本代表VS TEAM AS ONE(Jリーグ選抜)による復興支援チャリティーマッチである。TEAM AS ONE に選出された小笠原選手は試合前日、メディアに次のように訴えた。「この試合を、より多くの人に見てもらえる手段を考えてもらえないでしょうか。被災地には家も電気もない人がたくさんいます。避難所に小さなテレビを持ち込むとか…。どうか、お願いします」。震災後、大船渡市と陸前高田市を訪れ、惨状を目の当たりにした彼ならではの訴えだったが、その甲斐あってか、一部避難所や学校ではパブリックビューイングができる措置がなされた。大船渡高校でもサッカー部の面々、地域の人、合わせて60名ほどが視聴覚室で試合を観戦。母校の先輩が奮闘する姿に、「ありきたりな表現だけど勇気をもらった。言葉にはうまくできないけど小笠原選手が伝えたかった想いは受け取ったつもりです」と岩崎さん。小笠原選手は物資の支援にも協力しており、同校の体育館には段ボール箱に山積みになったトレーニングシャツなどが保管されている。

心に刻まれた前を向く精神

 では、彼らが受け取った“言葉にできない想い”とはなんなのだろうか。あえて言葉にするならば、それは“前を向き、前に進む気持ち”なのだと思う。取材中、3人からは前向きというフレーズがたびたび登場した。確かに今は目の前のことで精一杯かもしれない。街にはがれきや泥が残り、ライフラインが復旧していない地域もまだまだある。避難所生活で不安を抱えながら思うような生活ができない人もいる。しかしそんな中、誰よりも前を向いているのが3人に代表される生徒たちのような気がしてならない。

「やるしかない」という強い意志を随所に感じられた。特に話題がサッカーに移ると「i-LEAGUEでは昨年もDivision-1を狙ってましたが、震災の影響もあり今年はより一層その想いが強いです。なにがなんでも昇格して、自分たちの足跡を残したい」と、今年に賭ける意気込みを明確に示してくれた。

 街は依然として半壊したままだし、ライフライン、物資もいまだ不十分な状態だ。不安は多分にあるだろうことは想像に難くない。しかし、こういった状況下でも、前を向く強さを持ち、自らの目標を明確に示せる生徒が将来の大船渡、ひいては岩手を担うと思うと心強い限りだ。子どもたちは、時に大人よりも強い、のかもしれない。

 話を聞いた後、撮影のためグラウンドへ。ボールを用意し、撮影準備ができるまでの間、リフティングに混ぜてもらった。「ボールを蹴るのはいつ以来?」と聞くと「地震がきて以来触ってませんでした」という答えが。地震発生以来、彼らは自宅でできる限りの自主トレーニングを積んでいたそうだが、ボールを蹴れる環境にはなく、この日19日ぶりにボールに触れたのだという。確かに少しだけおぼつかないリフティングだったが、表情は明るく、楽しそうにボールを蹴っていた。冒頭で紹介した「サッカーをさせてもらえる喜び」を噛みしめるように。

 今野監督によると「部活動は4月7日を目途に再開予定です」とのこと。3月は強化という観点において非常に重要な時期。その大半を失ったことは戦術・技術的には大きなハンデとなり得るかもしれない。しかし、そのハンデを補って余りあるほどの精神的な糧を得たことも事実だ。強豪との試合にも臆せず対峙し、試合終盤の苦しい時間帯にもがんばれる精神力を手にしたと確信している。

 地震の影響で延期となったi-LEAGUEは5月3日にスタート、沿岸地域のチームはその後少し遅れて開幕する予定。大船渡高校サッカー部は、小笠原選手のプレーから感じ取ったこと、そして震災後の経験やサッカーができる喜びを胸に秘め、来るべき日に備えている。

(取材/高橋拓磨・写真/坂本廣美)

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(写真:19日ぶりに触れたボールの感触を懐かしむようにリフティングをする3人。)


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