岩手スポーツマガジンStandard(スタンダード)岩手をひとつにするのは、スポーツだ〜After 3.11『大槌高校サッカー部』〜

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[5/19更新] 部員11人の再出発 粘りの大槌魂を今こそ テニスコートで練習する大槌高校サッカー部

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 4月20日に始業式を迎えた大槌高校だが、体育館は避難所、そしてグラウンドは自衛隊の拠点となったままだ。そんな中、同校サッカー部はテニスコートとグラウンドのごく一部を利用し、できる範囲での練習に励んでいる。5月22日にはi-LEAGUEの開幕戦を迎えるが、この2ヶ月間、彼らはどのような活動を行い、どんな思いでサッカーに向き合ってきたのだろうか。

手狭なテニスコートで週3回の練習

 震災後、大槌高校サッカー部を指導する祝田義治コーチ、そして生徒の面々に会ったのは4月初旬。盛岡から岩泉へつながる国道106号線を経由し大槌へ。例年よりも気温が低いのか、山間部にはまだ雪が残っていた。

 大槌高校のテニスコートに到着すると祝田コーチと部員の浪板拓郎くん、上野峻斗くんの3人が待っていた。この日まで祝田コーチと浪板くんは避難所で過ごし、上野くんは寸でのところで被災を免れた自宅で生活している。地震発生時やその後の生活について聞くと「家が燃えながら波に流されていた」「何日間かは1日に小さなおにぎり2個で過ごした」など、凄惨かつ過酷な様子を話してくれた。始業式を迎えるまでは参加できる部員3~4名がテニスコートに集まって、週に3日ほどボールを蹴っている状況だった。無論、そのような環境下ではまともな練習は期待できない。しかし、それ以上に子どもたちの気持ちもなかなかそこまでついてきていないのが実状のようだ。上野くんは「正直、今はまだサッカーを考えられないです。町がないので…。でもサッカーをやりたい気持ちもどこかにあります」と物憂げな表情で心境を吐露する。

 震災から2カ月が経ち、彼らの心境はどのように変わったのだろうか。

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(写真:指導にあたる祝田コーチも避難所での生活が続いた)

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(写真:体育館は震災以来、ずっと避難所になったままだ)

大きな問題に直面している沿岸のサッカー

 4月18日、約10日ぶりに祝田コーチ、浪板くんら部員と再会。この日は三浦知良選手が所属する横浜FCが吉里吉里小学校を訪問予定で、それに合わせて再会の約束を交わした。生のカズを間近で見て、言葉を交わした彼らは終始興奮しきっていて、にこやかな表情を見せる。横浜FCによる支援活動が終わった後、彼らと話したが、10日前とは良い意味での変化が見られた。全国各地からの支援により生活に必要な物資や部活動に必要な用具が徐々にそろい始めているからであろうか。そしてそのことが彼らの心にわずかながらの余裕を生み出したのだろうか。伏し目がちだった前回とは違い、表情や体にエネルギーが戻ってきた、そんな感じがした。以前、同コーナーで紹介した盛岡商業の活動はもちろん、今回の横浜FCの活動などの支援を受けたことで、たった10日余りでこれほどまでに彼らの表情が変わったのを目の当たりにすると、改めてサッカーの持つ力の大きさを思い知らされる。

 だが、やっとサッカーに気持ちが向き始めた彼らの心境とは裏腹に、ここにきて別の大きな問題が生じている。サッカーをしたくとも練習場所がないのである。小学校の校庭は仮設住宅が建ち、町の運動場も波に飲まれていたり自衛隊の拠点になっていたりで、大槌町内のグラウンドはことごとく使用できない状況だ。大槌のサッカー熱は昔から伝統的に高い。個人レベルでは高い実力を持った選手を輩出している一方、指導者をみても大槌出身者は殊のほか多いのである。そんな町のサッカーが今、危機に瀕している。

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(写真:吉里吉里小学校を訪れた横浜FCの三浦知良選手)

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(写真:車がない限られたグラウンドのスペースを使って練習を行っている)

沿岸のサッカー少年に必要なものとは

 グラウンドの片隅でボールを少し触り、テニスコートでミニゲームをする。これが彼らの現在の部活動だ。グラウンドは非常に硬くなっていて、テニスコートは走る感覚やボールの弾み方もピッチのそれとは全く異なる。週末は練習試合に出向けばそのグラウンドを使うことはできるが、移動手段やその際に発生する費用を捻出するのが難しい家庭も多い。

 今の彼らに一番必要なもの、それは日常的な練習場所なのである。

 震災前は土か芝生かはともかく、サッカー選手がピッチの上でサッカーをすることは当たり前のこととして特に意識すらしていなかったが、あの日を境にそれは当たり前ではなくなり、さらにはそれを渇望するようにまでなってしまった。グラウンドの改修や自衛隊の拠点移動は現実的に不可能だろう。「それでも彼らのためにできることがあるはずだ」と指導者らも連携を取りながら打開を図っている。盛岡商業は継続的に支援をし、盛岡市立や大船渡などからは招待試合の誘いもある。「こんな

災害があったんだから仕方ない」と言ってしまえばそれまでだが、それでもこの環境をどうにかしてあげたいというサッカーファミリーが発する暖かい声の数々に祝田コーチは「震災がある前も感じてはいましたが、普段以上にサッカーのつながりの強さを感じます」と感謝の言葉を並べた。

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(写真:テニスコートでリフティングに励む生徒たち)

動き出した彼らの時間

 近年は少子化の問題もあり、やっとの思いで部員数11人以上をキープし続けていた大槌高校だったが、震災の影響でサッカーを続けられない生徒、家庭の事情で内陸の高校に転校していった生徒が出てきたことで部員が10人となってしまっていた。サッカーは11人で行う競技ゆえ、このままでは各大会への参加辞退という危惧もあったが、5月11日に去年までサッカー部に所属していた生徒が再加入。11人がそろったことでリーグ戦や大会への参加のめどが立った。現在、練習はオフの月曜日を除いて毎日、中学生も一緒になって行っている。人数が11人そろったこともあるのだろう、祝田コーチも「生徒たちのモチベーションは高まってきています。練習の中に厳しさも出てきました」と感想を口にする。同コーチ曰く「生徒も含め、震災後しばらくは生きることで精いっぱいだった」という状況を考えれば、サッカーを主体的に楽しむ気持ち、さらにはサッカーを追求しようとする姿勢がみられたことは何よりの明るい便りだった。

 冒頭でも触れたが、彼らは5月22日に今シーズン初の公式戦に臨む。葛巻町総合運動公園を舞台に13時30分にキックオフするi-LEAGUE Division2の第1節、葛巻戦だ。またこの日は同会場にて同じくi-LEAGUE Division2の大船渡vs宮古の沿岸ダービーも行われる。彼らには、自身がこれまで培ってきたもの、胸に秘める想いをサッカーで思う存分表現してほしい。競技をする以上、勝敗は重要なファクターであることは否定できないし、勝って地元に明るいニュースを届けるに越したことはないが、技術・体力的なもの以上に、その姿勢に注目したい。彼らならきっと期待に応えるプレーをみせてくれる。そう信じている。

 震災から2カ月。大槌高校の体育館壁面に備え付けられている時計は、今も14時50分で止まったままだ。しかし、彼らの時間は今ゆっくりと動き出す。ようやく到来したサッカーシーズンの幕開けとともに。

(取材/高橋拓磨)

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(写真:体育館横の時計は地震の時刻を刻んだまま止まっている)

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(写真:晴れやかな顔でカズ選手の印象を話す大槌高校サッカー部の生徒たち)

岩手県サッカー協会では、岩手県高校チームの支援金受入口口座を開設しました。集められた資金は、i-LEAGUEの太平洋エリアに所在地を置くチームのリーグ参加に係る交通費補助の資金となります。皆様からのご支援お待ちしております。

口座名:岩手県高校サッカー支援口
口座番号:2057938
銀行名:岩手銀行 青山町支店(店番:069)

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