岩手スポーツマガジンStandard(スタンダード)岩手をひとつにするのは、スポーツだ〜After 3.11『高田高校バレー部』〜

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[4/18更新] 少女たちの笑顔が復興のはじまりを告げる 高田高校女子バレーボール部

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 ヘリコプターから撮影された陸前高田市の映像を何度目にしたことだろう。津波が引いた後には、わずかな建物を残し、瓦礫の山が散乱している。その光景からかつての町の面影を見つけることは難しい。故郷の海は獰猛な怪物へと姿を変え、町のすべてを破壊し尽くしてしまった。
 この陸前高田市には、岩手の高校女子バレーボールの名門・高田高校がある。多くの命を奪い去った大津波は、彼女たちの夢までも奪い去ってしまったのだろうか。

想像を絶する風景。町全体が海の中に消えた

 高田高校女子バレーボール部の水澤雄次監督は「3.11」の記憶を思い起こす。忘れようとしても忘れられない一日。その日は午前中で授業が終わり、午後から部活が始まっていた。ワックス掛けをしたばかりの体育館は最高のコンディションとなっており、いつも以上に練習を楽しみにしていたと言う。「選手たちがランニングから戻り、体育館でストレッチをしている最中にバーンときた。グラグラじゃなくてバーンという感じ。今まで経験した地震とは明らかに違うものでした」揺れが収まった後、監督と部員たちは身の回りの物も持たず、着の身着のままで体育館を飛び出す。校舎からさらに上にある野球グラウンドまで一気に駆け上がり難を逃れた。

 想定された範囲を易々と越え、到達距離を伸ばした大津波。その瞬間の光景は想像を絶するものだったという。「町の中で見えるのは、海岸沿いにある高田松原第一球場の照明だけ。それ以外は水の中に消えていた。その中を家が次々に流されていった」まるでパニック映画の一場面。ありえない光景が目の前に広がる。海岸線から約1km離れた高田高校へも津波は及び、3階建ての校舎は水に沈んだ。

 今も陸前高田市の被災状況を見て回った時の衝撃を思い出す。高田高校の校舎はほとんどのガラスが割れ、体育館は崩れ落ちていた。学校からは建物に遮られて見えなかった海が今では見ることができる。ショッピングセンターも、旅館も、名勝地・高田松原も跡形なく消えた。時折すれ違う人は、おそらくここに暮らしていた人だろう。うつむきながら、自分の暮らしの痕跡を探し歩いている。道端に転がった目覚まし時計を拾い上げると、津波到達時刻で止まっていた。この町の時間は、あの日から止まったままだ。

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(写真:津波に襲われた高田高校の校舎。校庭には流されてきた車がゴロゴロ転がっている。)

ピンチを力に。水澤監督の気概

 震災の後の登校日。水澤監督は選手を集め、こんなことを話したという。「今は一日一日生きることで精一杯だろう。だからバレーボールのことを無理に考える必要はない。ただ君たちがバレーボールをやりたいと思える状況になった時に、すぐに練習できる環境を私が準備しておく」監督自身、今回の津波で家を流された。自分の暮らしのことだけでも大変なはずだ。それにも関わらず、選手の置かれている状況を理解し、バレーボールのことは自分が背負うという強い気概に心打たれた。厳しい状況に置かれた時にこそ、その人間の器があらわになる。

 三陸の取材を重ねる中で、スポーツ関係者の深い絆を何度も目の当たりにしてきた。バレーボールもその例外ではない。高田高校女子バレーボール部の窮状を救うために、義援金Tシャツを作った人がいる。選手たちをホームステイさせ、練習をさせてあげたいと名乗り出る人もいる。様々な形で広がり続けている支援の輪。ありがたいという気持ちの一方で、水澤監督の中には、震災に負けてたまるかという気持ちもある。「何か神懸かり的なことが起きるのではと期待しているんです。これから先、これほど苦しい試練はないでしょう。何かが起きそうな気がするんです」かつては全国優勝を果たした歴史を持ち、現在も県下有数の強豪校である高田高校女子バレーボール部。築き上げてきたものがそう簡単には揺るがないという自信がある。「選手たちは支えてくれる多くの方々の存在を実感したはず。感謝の気持ちが後押しとなって、落ちそうなボールが落ちなかったり、厳しい局面で良いプレーが生まれる可能性は十分ある」そしてこう締めくくった。「ライバルチームにもいろいろな支援をいただいた。選手たちには、大会では勝ち進んで、ライバル校との対戦を楽しんで欲しいし、そのゲームを見た人たちが感動できるような粘りを見せたい」

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(写真:女子バレーボール部を率いる水澤雄次監督。)

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(写真:今年の1月に行われた新人バレーボール大会。高田高校は準優勝を遂げた。)

復活の喜び、そして、今なお続く厳しい生活

 4月10日、大船渡高校との合同練習。高田高校女子バレーボール部活動再開の一報を聞きつけて、練習が行われる大船渡へと向かった。駐車場に車を止め、練習が行われている体育館を目指す。遠く離れた場所からでも元気のいい声が聞こえてくる。そして、その声は足を進めるたびに大きくなっていく。体育館の重い扉を開けると、選手たちが懸命にボールを追いかけている姿が視界に飛び込んできた。紺色のトレーナーの背中には「TAKATA」の文字。彼女たちはコートへ帰ってきた。

 この記念すべき日に、Vリーグ機構が花を添える。日本代表チームで活躍し、「パワフル・カナ」の愛称で知られた大山加奈さんが合同練習に参加してくれた。大山さんは2010年に現役を引退、現在はVリーグ機構の職員として働いている。引退したとは言え、ほんのちょっと前まではバリバリの現役。大山さんが打ち出す力強いボールに、選手たちは必死で食らいついていく。そして、この1カ月間、自分の心の中に抑え込んでいた思いを爆発させているように見える。私たちはバレーボールがしたかったんだという強い思い。久しぶりの練習がキツくないわけがない。それでも選手たちは辛い顔を見せない、みんな笑っている。コートでボールを追いかけることが、どれほど尊いことなのか。彼女たちは実感している。

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(写真:大山加奈さんが合同練習に参加。大船渡高校と高田高校の選手に指導を行った。)

目指すのは頂点。少女たちの夢が動き始める

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(写真:高田高校女子バレーボール部キャプテンの門口美希選手。笑顔と強力なスパイクが印象に残る。高田高校の部員たちは、試練を乗り越え、コートに戻ってきた。これから巻き返しが始まる。)

 高田高校女子バレー部のキャプテン・門口美希(3年)が大山さんへ感謝の気持ちを伝え、約3時間の合同練習は終わった。「久々に思いっきり動いたので、明日は筋肉痛になりそうです」と門口は笑いを誘う。1カ月の空白の影響は小さいものではないはずだ。今から巻き返して優勝する自信はありますか?と門口に質問すると「あります!」と即座に答える。焦らず、慌てず、もう一度努力を積み上げていけばいい。津波で止まった高田高校女子バレー部という時計は今、力強く動き始めた。そして、その時計はもう止まることはない。

(取材/菊地健二)

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