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文芸部IWATE

【戯曲】これしかありえない今、きみをみつける未来

第45回岩手県高校総合文化祭文芸部門
岩手県高校生文芸コンクール戯曲部門最優秀賞

【戯曲】これしかありえない今、きみをみつける未来

岩手県立盛岡第一高校 佐々木 麻佑子

登場人物
・少年
・ハカセ
・姉
・先生
・青年  ※頭がない。
・花
・老人
・一
・二

〜夜〜

 幕が上がる
 舞台は暗い
 中央に少年とハカセ
 少年は布団を被っている

少年  ハカセ
ハカセ ……
少年  ……ハカセ!
ハカセ ……
少年  ハカセ!
ハカセ ふへ!……何だね
少年  寒い。寒いです
ハカセ ……問題ない。布団があるじゃないか
少年  ……寒い
ハカセ じゃあそれは気のせいってやつだ

 少し間

少年  どうしてそんな酷いことが言えるんですか!?あなたには人の心が無いんですか!?(感情を込めて)
ハカセ 「演技である」に大根二本
少年  はあ……(溜め息)

 間

少年  美大に行きたいんです
ハカセ 「嘘である」にイヤホンかたっぽ
少年  ……というのは嘘です
ハカセ やっぱりね!

 間

少年  ……なんにも報われません
ハカセ ……
少年  次のは賭けないんですか?
ハカセ 君はまだ麻婆豆腐を知らない
少年  ……何ですか急に
ハカセ 君はまだ麻婆豆腐を知らない。……寒い日に銀色のスプーンで、ふうふうしながら食べる麻婆豆腐は格別だよ
少年  そんなこと言ったって……
ハカセ 白米と合わせると、さらにおいしい
少年  ……
ハカセ どうだね?
少年  ……食べてるんでしょうか
ハカセ 食べてるんだろうね

 間

少年  僕、いつも一人なんです
ハカセ ……
少年  誰も助けてくれないんです
ハカセ もっとマシな台詞を言えないのかね
少年  ……すみません

 少し間

ハカセ 七十七億
少年  ……何の数字ですか
ハカセ 今の地球の人口はだいたい七十七億。だからこの世界のどこかには君が、ぴたっとハマる!……所がある、だろう
少年  ほんとに見つかるんでしょうか
ハカセ 見つかるだろう。数学的に
少年  数学的に?
ハカセ 数学的に
少年  ……七十七億か……ラッキーセブンですね
ハカセ それじゃ、もし見つかったら君は麻婆豆腐じゃなくてタコスとか食べてるかもしれんなメキシコあたりで
少年  ……メキシコあたりで?
ハカセ メキシコあたりで
少年  ……メキシコかー……
ハカセ どうだね、理想の生活は?
少年  毎晩良い夢を見て、……八時間以上眠りたい
ハカセ だとしたら君は納税はできないだろうね
少年  ……そういうところですよ
ハカセ すまんのう
少年  ……メキシコの税制ってどんなのなんだろ……
ハカセ 君
少年  なんですか
ハカセ もう遅いから寝なさい

 ゆっくり暗転

 間

 明転
 ジリリリリリ……(目覚まし時計の音)
 姉、登場

姉  弟よ!朝よ!起きよ!

〜朝食〜

 二人は食卓を囲んでいる

姉  弟よ
少年 ……はい
姉  姉さん大事な話があるの
少年 ……
姉  よく聞いて。あなたには学校を卒業したら、教団に門下生として弟子入りしてほしいの
少年 ……なんで
姉  最近物騒でしょう?それもこれもぜんぶ異星人によって脳波が操られているせいなの。……近いうちに遠い星から野蛮な異星人がやって来て大混乱が起こるから、姉さんたちは毎日こうして祈りを捧げているの。こうしてね、こうして北に向かって……

 姉、少年に背を向けて崇拝する

少年  ……姉さん。醤油とって
姉   オレンジジュース?それとも牛乳にする?
少年  いや……
姉   門下生になればあなたも特別なパワーを授かることができるの。すぐにでも弟子入りすべきだわ
少年  姉さん
姉   じゃないと姉さんあなたの身が心配なのよ
少年  ……
姉   おねがい。姉さんを安心させて頂戴

 姉、牛乳を少年のコップに注ぐ
 コップからあふれて、こぼれる

少年  姉さん僕
姉   なあに?
少年  絵が賞をとったんだ
姉   絵?
少年  うん

 少年、絵を姉に渡す

姉   ……ダメよ!星の絵を描くのは教団で禁止されているのよ!

 姉、少年の絵を破く

姉   ねぇ弟よ。姉さんはね、あなたに幸せになってほしいの
少年  ……はい
姉   そろそろ学校に行く時間よ。ほら、ニンニクゼリーも食べて。あなたの体が大事なのよ。外の世界は危ないのよ。ニンニクゼリーはおいしいのよ!

 少年、ニンニクゼリーを食べる

姉   おいしい?
少年  もごもご……すごくおいしい(苦しげに)
姉   もっと食べて。もっともっと
少年  もご……姉さん……もう食べられないよ……
姉   もっと食べて頂戴。体にいいから
少年  もごもご……
姉   おいしい?
少年  ほいひい(おいしい)

 暗転

〜駅のホーム〜

 明転
 ハカセと少年が立っている

少年  僕の絵はびりびりになって宙に舞った。僕の両目から大粒の涙……は、溢れなかったけど……

 少し間

ハカセ 悲しいかね?
少年  ……まぁ
ハカセ それはどうかね。びりびり、なんていかにも悲しそうにして君は本当は喜んでいるんじゃないか?
少年  ……そうでしょうか
ハカセ そうだろうね
少年  なぜでしょうか
ハカセ なぜだろう、それは君……何も考えなくてよくなったからだよ
少年  ……たしかに
ハカセ たしかに
少年  たしかに。じゃあ悲しくないです

 少年、にっこり笑う

 間

少年  はぁ……ふぅ……
ハカセ どうしたんだね急に
少年  ニンニクゼリーもどしそう……苦しい……
ハカセ ……君は、姉さんが憎いかい?
少年  ……いや
ハカセ 君の姉さんはあのままでいいんだ。誰も悪くない
少年  はい
ハカセ ……おまじないを教えてやろう
少年  おまじない?
ハカセ リピートアフターミー。僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか、はい
少年  僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか……
ハカセ どうだい?
少年  なんだか違う気がします
ハカセ それは、どうして
少年  どうしてか大事なんです
ハカセ ハッハッハ……それじゃあこっちはどうだい、リピートアフターミー、僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる
少年  僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる……
ハカセ 落ち着くだろう?
少年  はい、とっても

 ゴオオオオォォォォ……(電車の音)

少年  電車、来ちゃいました
ハカセ ウム

 暗転

〜学校〜

 明転
 少年が絵を描いている
 先生、登場して絵を覗き込む

先生  うーん……とっても上手にね、描けてるんだけどね……
少年  ……はい
先生  気持ちが弱いかなぁ。もっと絵に、心を込めてほしいの
少年  ……
先生  もっと、青春らしい、パワフルさと、ほろ苦さが欲しいかなぁ
少年  ……ほろ苦さ……
先生  先生も若い頃はねぇ……友人関係でしょっちゅう夜に泣いたわ
少年  ……
先生  あなたも、青春真っ盛りの今、しか描けない絵を描いてみたら?
少年  青春、ですか
先生  友人関係の悩みとか
少年  ……別にないです
先生  本当に?些細なことでもいいの。誰にでも悩みはあるでしょう?
少年  悩み……ですか
先生  何でもいいのよ。思春期はみんな色々な悩みを持つものだから。勉強のこと。友達のこと。からだのこと。自分の性格のこと。容姿のこと。異性のこと。将来のこと……先生になんでも話してちょうだい
少年  ……
先生  なんでもいいのよ。先生に、話して頂戴
少年  ……あ……姉が
先生  姉が?
少年  姉さんが……宗教にハマっているんです。……僕はそれ自体は構わないんですけど……僕の進路を勝手に決めようとしたり、ニンニク系の食べ物をすごく出してきたり……
先生  あー、ご家族が宗教にハマって、ねー……
少年  ……はい
先生  でも、よくある話よ
少年  ……
先生  あまり思いつめなくていいんじゃない?
少年  ……
先生  でも題材としては丁度いいわ!それでも変わることのない、お姉さんへの愛情を描きましょう!
少年  ……先生
先生  ああごめんね。まだ聞いてあげたいのは山々なんだけど、今日子供の誕生日なの。また今度、作品のこと考えましょうね

 先生、はける
 暗転

〜駅のホーム〜

 明転
 ハカセと少年が立っている

少年  僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる…………
ハカセ ……どうして言い返してやらないんだね?
少年  僕だって言ってやりたかった。僕はそんなんじゃないって
ハカセ 「僕はそんなんじゃない」。うーん、くさいなあ
少年  ……すみません

 間

ハカセ (先生の声真似で)思春期はみんな色々な悩みを持つものだから。勉強のこと。友達のこと。からだのこと。自分の性格のこと。容姿のこと。異性のこと。将来のこと……
少年  ……そぞろごと!ねぇハカセ
ハカセ 何だね
少年  姉さんや先生は、悪いんでしょうか

 少し間

ハカセ そんなわけないだろう。人類がどうやって生存してきたと思ってる。多様な考えをするものがいるからうまく問題に対処して発展してこれたんだ。……だから君の姉さんも先生も、居ていいんだ君だってそうだ
少年  ……はい

 少年、にっこり笑う

 間

少年  ……ハカセ
ハカセ 何だね?
少年  うわごとを言うのは、やめてください

 少年、ナイフを取り出してハカセを刺す
 ハカセ、倒れる

 ゴオオオオオォォォォ……(電車の音)

少年 ……電車きた

 暗転

〜四両目〜

 明転
 少年、下手から登場

少年  僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる僕はもう死んでいる……(小声で呟く)

 少年、座る
 青年、登場
 少年、青年の方を向く

少年  ……えっ
青年  ……あぁこれ、……初めて見ますよね
少年  ……

 青年、少年の隣に座る

少年  ……なぜ……
青年  ……ずっと、外してみたかったんです。頭を
少年  ……
青年  聞いてくれませんか、俺の話を
少年  ……はい
青年  俺は世間に溶け込んで生きてきました
少年  はい
青年  しかし実のところ俺には、俺の頭を引きちぎってしまいたいという欲望がありました
少年  ……はい
青年  頭が邪魔で邪魔で仕方がありませんでした。頭は、いつだって俺をぼんやりとさせて、自身の奥底のなにかを縛り付けてしまうと、……そんな感覚がありました
少年  ……あぁ少し、……少しならわかる、気がします
青年  いつも虫唾が走りました。苦しくて苦しくて、楽になりたかった……だから、頭を外した
少年  痛く、なかったのですか?
青年  ……快感でしたよ
少年  ……それならよかった
青年  しかし俺の心は晴れなかった
少年  なぜです
青年  俺は、……情けないけれど、きっと、人並み、というものに憧れていたのです

 二登場

一   うっうっ……(泣き声)
二   ご友人の方ですか?……亡くなった青年についてお聞かせ願いたいのですが……
一   本当に優しくて……真面目で、友達思いのいい子でした。どうしてこんなことに……
青年  ……誰も自分が、狂った欲望を抱えた化物だとは思わないのです
少年  ……
青年  くそ。俺のことなんか、誰も見ない。誰もわからない。誰も気づかない。くそ。くそ。くそ!
少年  ……

 二はける

青年  人並みに生きるということに、何度も憧れました
少年  ……
青年  しかし自分は……きっとこれで、よかったのです
少年  なぜですか。なぜ……
青年  ……頭を、外してみたかったんです。どうしても
少年  ……
青年  おかしいだろう?
少年  いいえ……
青年  話を聞いてくれてありがとう。君は、この先に進んだ方がいい

 暗転

〜三両目〜

 明転
 少年、下手から登場

少年  ……草原?……春の匂いがする……
花   おーい
少年  ……
花   おーい!
少年  ……どこですか?
花   ここだよ。ここ!

 少年、後ろを振り返る

少年  ……ああ
花   やあ
少年  ……こんにちは
花   こんにちは
少年  ……花って、喋れるんですね
花   喋れる花もいるのさ
少年  ふふっ……(少し笑う)
花   面白いかい?
少年  うれしいです
花   ははは!

 少し間

少年  ……どうして花になったのですか?
花   ……私は、疲れたんだよ

 二登場

一   ドーナツとベーグルは違います
二   いいや。ドーナツとベーグルは同じだ。形があんなにそっくりだろう
一   ドーナツとベーグルは違うんだ。どうしてわからないんだ
二   ドーナツとベーグルは形が同じだろう?どうしてわからないんだ
花   たったこれだけのこと。だけど私は、疲れたんだよ

 一、二はける

花   私はただ、ここで風に吹かれているだけで構わない

ピューーールルルルル……(風の音)

少年  孤独ではないのですか?
花   孤独はつきものだよ
少年  それは……そうですね
花   でも私は、前よりずっと……いい感じさ!
少年  なぜでしょうか
花   理由なんかないよ
少年  ……なんだかすごく温かくなりました
花   ……さあ君は、次へ行きたまえ

 暗転

〜二両目〜

 明転
 少年の隣に老人が座っている

老人  君

少年、老人を向く

少年  ……びっくり、しました
老人  君が欲しいものは、なんだね?
少年  ……わかりません
老人  ……ワシには長年、探してきたものがあってな、これを見たまえ

老人、少年にペンダントを見せる

少年  ……ペンダント、ですか?
老人  真ん中に穴が空いているだろう?ワシはここにぴったりはまるものを、何年も何十年も、探し続けてきた
少年  ……
老人  きっとあると信じていた。山に登り、海を渡り、あらゆる町を訪れた。その度に失望ばかりが増えた
少年  見つかったのですか?
老人  いいや。一生を捧げても、この穴が埋まることはなかった
少年  ……
老人  君。この穴をどう思う
少年  痛くて痛くて、たまらないです。怒ってしまうほどに
老人  はっはっは、君は若いなぁ……そう。痛いんだ。……それでもいつの間にか……この穴はワシの一部になった
少年  ……
老人  この穴も、ひとつの象をもっているんだ
少年  そんなの……納得できません
老人  はっはっは。そうか……君も探してみるといい。……さぁ、先に進みたまえ
少年  できません
老人  進みたまえ。君はまだ若い

 暗転

〜一両目〜

 明転(少し暗い)
 少年、下手から登場

少年  空が広いな……星が、綺麗だ

 ハカセ、下手から登場

ハカセ やあ

 少年、振り返る

少年  ハカセ!どうして……
ハカセ ウム。むかし床屋でもらったパイン飴を舐めて蘇生したから問題ない
少年  ……懐かしい味
ハカセ ここがどこだかわかるかね?
少年  ……星がたくさん見えます
ハカセ 君が過ごしてきた夜の、空だよ
少年  知りませんでした
ハカセ どうだい世界は、広いだろう?
少年  はい。なんだかすごく……勇気を、もらいました
ハカセ ベタだな
少年  ベタですね

 間

少年  勇気ってなんでしょうか
ハカセ ……人を救うもの、ではなかろうか
少年  僕も救うんですか?
ハカセ きっと救うにきまってる、数学的に
少年  数学的に?
ハカセ 数学的に

 間

ハカセ 遠くで花火の音が聞こえないかね?

 少し間

少年  あ、今ちょっと……聞こえました
ハカセ また鳴った
少年  ……また鳴りましたよ

 間

ハカセ 遠くで泣き声が聞こえないかね?

 少し間

少年  ……聞こえます
ハカセ ここからも花火でも打ち上げるか
少年  そんなこと……そんなこと、できません
ハカセ どうしてだね?
少年  僕は人を救えません。僕のこの……痛みはこのままなんです
ハカセ 君、それは問題ないよ
少年  なぜですか
ハカセ だって君は、ワシが作ったロボットじゃないか
少年  ……
ハカセ 君も、君の姉さんも、先生も、プログラムされたことをしているだけの、ロボットじゃないか

 間

少年  ハカセ
ハカセ ……
少年  僕は、いろいろなものが懐かしいんです。姉さんのニンニクゼリーも。おじいさんのペンダントも。ぜんぶ在って、いいものなんです
ハカセ ……
少年  そういう、ロボットです

 間

ハカセ また花火の音だ
少年  今また鳴りましたよ
ハカセ また鳴った
少年  ちょっと泣き声
ハカセ 君
少年  はい
ハカセ さっきのは、冗談だから

 少年とハカセ、笑う
 閉幕