文芸部IWATE
第39回全国高校文芸コンクール
岩手県勢入賞作品紹介
昨年行われた第39回全国高等学校文芸コンクールは7部門に2万9772点の応募があり、岩手は6部門で32作品が入賞。そのうち2作品が最優秀賞を受賞している。
高校生のみずみずしい言葉で紡いだ多数の作品をご堪能あれ。
▶︎ 小説部門(7作品)
▶︎ 文芸評論部門(1作品)
▶︎ 詩部門(11作品)
▶︎ 短歌部門(3作品)
▶︎ 俳句部門(5作品)
▶︎ 文芸部誌部門(5作品)

小説部門
最優秀賞・文部科学大臣賞
星月夜に詩
盛岡第四高校3年 菊池七海
この小説の主人公である詩織の視点が読者の視点と重なって物語が進んでいくところです。冒頭の五七五だけ書かれた短歌の続きを探していく過程で、普段は文学に触れることのない主人公が文学の魅力に引き込まれていく姿や、主人公に関わる登場人物の温かさが伝わりやすいと思っています。

優秀賞
こんきしかない果実
盛岡第三高校2年 田島颯大
この作品は、私の母の実家がある青森での体験を活かし臨場感あふれるものになるよう意識して書きました。広大な田園の風景や、実際に手伝ったことのあるミニトマトの収穫のシーンは、小洒落た表現などを避け、自分の実体験をそのままの形で読者に伝えられるような言葉選びを心がけています。また、オノマトペを用いて、聴覚の面でも作品世界に入ってもらえるようにしました。ぜひ、楽しんで読んでいただけたらと思います。

祭りが終われば
盛岡第三高校2年 小泉大和
この作品は毎秋、岩手県紫波町で開催される「志賀理和氣神社例大祭」をモデルに主人公が人との関わりや祭りへの参加を通して、祭りの持つ力を感じると共に人として成長していく物語です。山車が出来上がっていくまでの過程や動く山車のダイナミックな迫力や祭囃子の華やかさが伝わるように丁寧な風景描写や臨場感が出る擬音表現を心がけました。

優良賞
芽吹踊り
盛岡第一高校2年 石川六花
中学時代壁新聞づくりに励み、当時国語の先生が熱意をもって教えてくれました。そのときのことを思い出し新聞部をテーマにした作品です。現在は放送委員会も兼部しているため取材を通して様々な出会いや経験を交え書きました。情景描写を多く取り入れ、場面ごとに変化をつけているので臨場感を味わいながら楽しんでいただけたらと思います。

イグナイト・サマー
盛岡第四高校2年 谷藤凜香
この作品は昨今問題となっている「炎上」をテーマにして書きました。よりネットの恐ろしさが身近に感じられるよう、冒頭は仲のいい男子高校生4人組がトランプで遊んでいる場面から始め、「炎上」が日常の延長線上に起こるものだということを印象づけるようにしました。不安や緊張感のある展開が見どころです。

入選
おばあちゃんと林檎
水沢高校3年 髙橋祐加里
少子高齢化社会の現代、年老いた両親の余生をどうするのか、決して他人ごとではない問題を背景に孫の視点で物語は展開していく。当たり前だが誰もが老いる。いずれは行く道。そのとき、当事者、周りの人間、それぞれの立場で思いは異なるが、一つ言えることは老いも若きも家族は皆愛すべき存在だ。そんなことをこの小説は思い出させてくれる。

モノクロのクロッカス
盛岡第二高校1年 季村由羽
初めて書いた小説「モノクロのクロッカス」には、私自身の経験と思いを詰め込みました。絵が好きで、画家になることを夢見た少年はいつの間にかおじさんに。ギャラリーカフェでの少女との出会いが夢を追うことを諦めた主人公の心を動かしていくストーリーです。夢を追うことの難しさや楽しさについて読者の皆さんに感じていただければ幸いです。

文芸評論部門
優秀賞
本当の美しさとは―ディズニーが描く多様性とルッキズム―
盛岡第三高校2年 菅原茉央
幼い頃から今でも大好きなディズニーの作品「美女と野獣」について論じました。多様性やルッキズムが現代の社会で問題視される今、ベルや野獣は私たちに何を教えてくれるのか。本当の美しさとは一体何なのか。100年の歴史を誇るディズニーが描いてきた真実の愛を、多様性とルッキズムの観点から研究しました。少しでも差別や偏見で傷つく人が減り、今よりもっと優しい世界になることを願います。

詩部門
優秀賞
めんどくさい星人
盛岡第三高校2年 菅原茉央
自分についてや周りのことで悩んでしまう人の心を少しでも軽く出来たらなと思い執筆しました。100パーセント自分を受け入れて分かってくれる人はいないかもしれないけど、せめてあなただけはあなた自身を許して、受け入れてあげてください。分かろうとしてくれる人も、見えていないだけで本当は案外近くにいたりするかもしれません。そんなことが伝わればいいなと思います。

七月に嗤うクラゲ
一関第一高校3年 千葉真桜
3年間クラゲをモチーフにした作品を手掛け、そのシリーズの中の1つになります。この詩は鶴岡市の加茂水族館にクラゲに見立てた傘が売っていて、その傘からイメージを膨らませてつくりました。7月のなま暖かくじめじめした空気感や、雨の降る音、色や景色など臨場感が伝わっていただけたらうれしく思います。

おしゃれなしゃれをしゃべるしゃれこうべ
黒沢尻北高校2年 髙橋怜音
目で見て言葉遊びに着目するも良し、声に出して味わっても良しといった作品。物語として「しゃれ」を特筆し、各連の最後やタイトルに効かせました。さらに2回繰り返す「ぎなた読み」(文章の区切りを誤って読む言葉遊び)を用いています。こんな自分の作品を評価してくださった方々に「しゃれ」いをしたいぐらいです。

優良賞
心の色
盛岡第一高校2年 石川六花
「本当の友達というのはあなたの心の深いところに流れているメロディを知っている人です。そしてあなたがメロディを忘れたときにそれをあなたに思い出させてくれる人なのです」。これは新聞広告のコピーですが、印象に残り、自分は何なんだろと思い悩んだとき、友達との関わりの中で自分自身のことをあらためて思い出させてくれた様子を書きました。

入選
美しい心
盛岡第四高校2年 谷藤凜香
短い詩ではありますが、自分が生きていくうえで重視したいことを表現しました。美しいものについて、例えば花について、人は割いている花の部分しか見えませんが、花には茎も根もある。人の見ることのできる範囲はとても狭いと思います。だからこそ姿形よりも見えないところを大切にしたい。そんな思いを込めてつくりました。

あのあのあなた
盛岡第三高校3年 小野光璃
この詩は、私が初めて作品として書き上げたものです。時間はかかりましたが、その分、分かりやすい作品になったのではないかなあと思います。普段、私が抱えている「抱きしめたい」という少し不思議な思いが伝わるように、言葉を慎重に選んだり、繰り返しで印象に残るようにしたり、工夫しました。誰かが読んだときに、私の気持ちが少しでも感じてもらえたら嬉しいです。

あなたは誰?
盛岡第四高校3年 藤田和夏南
毎日の中で変化する環境や人間関係に対して揺れ動く気持ちを、比喩や対比を用いて表現しました。書いている中でマイナスな感情が多く浮かびましたが、作品が単調にならないようポジティブな表現を入れることを意識。また、作品に余韻を出すためにすべてを言語化せず、言葉の終わり方や空白の使い方も考えて書きました。

大人になった私へ
花巻北高校3年 小原仁美
18歳になる少し前にこの詩を書き始めました。成長するにつれ増える責任や、失ってしまったものに対する思いが込められています。数年後に私自身がこの詩を読んだときに何を感じるだろう、ということを意識しました。昔と好きなものが変わってしまったという経験は大抵の人にあるかと思います。自身の変化に思いを馳せながら読んでいただければ幸いです。

足すと引くで零になる
盛岡第二高校2年 佐々木実央
この詩は、自身の思い通りにならない日常に対する憤りや、そこから転じた心の奥にある葛藤について書いたものです。似たような経験のある方も多いのではないでしょうか。見どころとしては、複雑な気持ちをストレートに書き表している部分と、最終連で重力が狂ってしまったことを視覚的に表現している部分が挙げられると思います。

脳は宇宙なるか。
盛岡第四高校3年 小山文遥
この詩は、詩全体の世界観、テーマが見どころになっているでしょう。脳の快楽物質が外部から供給される事で、快楽そのものを変質させ、脳を変質させ、肉体を変質させ、やがては世界を変質させるのです!素晴らしい!

沈み込みたい
花北青雲高校3年 中村亜梨栖
この詩は、惹きつけられる対象に出会った人間の心を地震発生の仕組みになぞらえて書いた作品です。魅了された対象に思いを募らせていくことを「プレートが沈み込む」と表現し、それによって発生した感情の起伏を「ダムの沸騰」や「しっとり枕」という言葉で表しました。最後に少しでも余韻を感じていただければと思います。

短歌部門
優秀賞
行ってきます…
宮古高校定時制1年 佐々木晃耀
学校に行く前に、祖母の家に寄り、その後、汽車に乗って登校する、といった何気ない日常をそのまま詠みました。中学生の頃はあまり学校に通えておらず、登校という日常をあまり経験してきませんでした。高校に入学してから、毎日登校するようにしているので、そんな日常があたりまえになりました。そのあたりまえが私にとっては大きな一歩でした。

優良賞
セロ弾きが…
盛岡第四高校2年 高橋舞
この短歌は宮沢賢治さんの作品「セロ弾きのゴーシュ」をテーマに詠みました。この作品での教訓は、仲良く協力をすることの大切さなど様々あると思います。そんな児童向けの絵本にも描かれているようなとても大切なことを見落としてしまっていた自分に気付き、賢治さんの出身である豊沢に立ちつくし風を感じている、そんな脱力感を感じてほしいです。

盆の夜…
岩谷堂高校2年 佐藤里美
毎年、盂蘭盆の八月十六日の夜、奥州市の鹿踊り団体は「百鹿大群舞」として集い、鹿踊りを披露しながら江刺の大通りを練り歩きます。
その様子を太鼓の音と鹿踊りの情景が思い浮かぶように表現しました。また、亡くなった祖母を悼む思いも込めて詠みました。私が鹿踊りを頑張るよう応援してくれた祖母に、感謝と鎮魂の祈りが届くことを願っています。皆さんも「百鹿大群舞」の太鼓の響きに包まれて鹿踊りの沼を体験してみませんか。

俳句部門
最優秀賞・全国文芸専門部会長賞
乳房欠く…
一関第一高校3年 千葉真桜
小学2年生のときに母が乳がんを患い、数年の治療の後、元気になった母と共に蛍を見に行った情景を表現した一句。「治療中は抗がん剤で髪の毛が抜ける姿も見ていたので。そこから完治できたのがちょうど蛍が飛んでいたころ。まだ肌寒い時期でしたが少しくらいならもう大丈夫。これから先もまたこうして母と一緒に出かけることができるんだなって」。当時12歳の思い出を高校最後の年に詠んでいる。作者のしみじみとした喜びや情景が伝わってくると同時に、その裏から不安や寂しさを抱えて過ごした時間も伝わってくる秀逸な作品。

優秀賞
青空の…
盛岡第三高校1年 吉田朱里
この俳句は、盛岡の冬の朝に感じる寒さを詠んだ一句です。冬の季語である「嚔(くしゃみ)」を用い、その冷たさが体の芯まで染み渡る様子を描きました。「突き刺す」という強い表現を選ぶことで、厳しい寒さの中で思わず嚔が飛び出す瞬間により迫力があるように表現できました。

優良賞
流れてく…
盛岡第三高校3年 高橋あおい
雨や曇りは、陰気臭くてどうしても疎まれがちですが、私はどんなに鬱々とした気持ちでも大きな雲や雨音に包んでそのまま受け入れてくれるような優しい天気だと思います。この句では「も」の音を繰り返す工夫をすることで、何もかもをゆったりとした流れに合わせて持ち去って行く梅雨の雲を表現しました。

入選
愛犬の…
花巻北高校3年 渡邉優月
私の俳句は日常の一場面を切り取ったものであることが多いので、この句に共感して下さった方もいるのではないかと思っています。優しく穏やかな俳句を目指してこの句を作りましたから、全国大会入賞という素晴らしい評価をいただけたことを、本当に嬉しく思っています。私の俳句が皆さまの大切な思い出を振り返るきっかけの一つになってくれれば嬉しいです。

冬瓜の…
盛岡第二高校1年 加藤夏実
いくつか作った俳句の中でも特に気に入っていた作品だったので、とても嬉しく思っています。句に出てくる冬瓜は私の好物なのですが、食べる機会はそう多くありません。その貴重な思い出として、冬瓜の白色が透け、美味しそうな煮汁の色が見える様子を作品にしました。映像を思い浮かべて読んでいただければ幸いです。

文芸部誌部門
優秀賞
志髙文芸 第58号
盛岡第四高校 文芸部
『志高文芸58』のテーマは「芽吹く」です。歴代の先輩方が育ててきた肥沃な土から養分を吸収し、自分の中で眠っている種から新たな芽を吹かせようという思いからこのテーマに設定しました。企画の百人一首では苦手意識の強い短歌にあえて挑戦し、2年生企画では恒例の詩ではなく児童小説を書くなど、伝統を受け継ぎつつも新たな試みを取り入れた部誌となりました。
黎 第24号
盛岡第三高校 文芸部
『黎』は、毎号斬新な企画を盛り込み、高校文芸の枠を押し広げてきました。今号でも大学の先生の指導を受けて文芸評論の執筆に挑んだり、部員一人ひとりが盛岡の街を歩いて詠んだ短歌でカルタを作り家族や友人と遊んだりしました。また、今号は本誌と連動したQRコンテンツもあり、読者の皆様にもカルタをダウンロードして遊んでいただくことができます。これからも全国各地の仲間と切磋琢磨しながら新たな道を切り開き続けます。
優良賞
煌 第21号
水沢高校 文芸・短詩部
「煌」21号は、扉を「ひらく」と文化が花「開く」をかけて、「ひらく」をテーマにさまざまな物語を収録しています。平安時代の古典作品をアレンジしたり、短詩部の吟行記や俳句甲子園のレポートのほか、文芸大会で訪れた山形や東京での出来事なども収めています。多くの経験を積み重ねながら実力を磨き、これからも文学に情熱を注いでいきたいと思います。
奨励賞
はなぶさ 第48号
盛岡第二高校 文学研究部
文芸部誌「はなぶさ」第48号のテーマは、「若気の至り」。代々はなぶさと言えばお上品で真面目といったイメージ(当部比)ですが、私たちの代では何か新しいことに挑戦しようと考えました。その甲斐あってか、企画「文学少女」や読者の選択によって結末が変わる「選択式小説」の発案に至りました。第48号は過去イチ自由なはなぶさとなっています。
花北文学 第67号
花巻北高校 文芸部
今回の部誌は宮沢賢治作品の「よだかの星」をもとに、「飛翔」というテーマで制作していきました。作中で特に重視されているであろう「憧憬」と「逃避」の二つの小さいテーマに分けて、それぞれに沿って部員が作品を仕上げていきました。「よだかの星」の文学研究はもちろん、部員たちが書き上げた作品の数々、そして部誌全体のデザインに至るまで細かくこだわっています。ぜひ、楽しんでいただけると幸いです。